プロジェクト概要

プロジェクト概要

ようこそ!

このページは、「アジアの高齢化と人の移動を展望し活力を生み出す起業、政策提言、研究 ―フィリピン、インドネシア、ベトナムのEPA看護師らの交流 」(トヨタ財団国際助成2019年度プロジェクト)の活動を紹介するページです。

経済連携協定(EPA)の枠組みで、インドネシア、フィリピン、ベトナムから、毎年看護師たちが渡日しています。彼らは日本で正看護師になるために、日本語を勉強し、それぞれの受け入れ病院でOJTをしながら、国家試験の準備をします。国家試験に合格すれば正看護師として働きますが、残念ながら不合格の場合、帰国しなければなりません。また合格しても、さまざまな理由で帰国を選択する人もいます。トヨタ財団の支援を受け、帰国したEPA看護師たちに焦点をあてたプロジェクトを行なっています。

プロジェクト代表:米野みちよ(静岡県立大学教授)
同 共同 代表:         平野 裕子(長崎大学教授)

プロジェクトについて

2008年以降、日比、日尼、日越の経済連携協定(EPA)に基づいて、6000人余りの看護・介護人材が渡日し、既にその約半数が帰国しています。日本語および日本での老年看護・介護スキルを学んだ彼らは、帰国後は自国の高齢化と看護・介護人材の出稼ぎ、という共通の課題を前に、解決策を生み出す主体となり得る貴重な人材です。本プロジェクトは、帰国した元EPA看護・介護人材が、斬新な実践や研究、起業を行うのを後方支援するために、何ができるのかを考えます。

三ヶ国の帰国者たちが集ってワークショップを行い、それぞれの国のユニークな活動を行う紹介します。例えば、高齢者の包括的ケアを学んだ帰国看護師による「介護福祉士」という専門職の確立、日本の口腔嚥下ケアを取り入れた健康増進の啓蒙、帰国者たちが働きながら再受験の準備とそのための費用を稼ぎ出す社会的起業、高齢者の包括的ケアを学んだ帰国看護師による「介護福祉士」という専門職の確立等、を紹介します。送り出し国では、優秀な看護師らの頭脳流出に悩んでいますが、優秀な帰国人材の活用・活躍の機会の創出に繋げたいと願っています。

EPA制度に基づく外国人看護師の受入れとは?

外国人看護師の受入れは二国間の貿易促進の目的のもと始められた

EPA(Economic Partnership Agreement)とは、二国間経済連携協定の意味で、日本と貿易相手国との間で貿易を迅速なものにするために締結されます。日本政府は、EPA制度に基づく看護師の受入れは「看護・介護分野の労働力不足への対応として行うものではなく、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から実施するもの」(厚生労働省)という姿勢を取っています。

外国人看護師の受入れは、フィリピン(2006年締結)、インドネシア(2007年締結)、ベトナム(2009年締結、2011年覚書締結)との間でそれぞれ締結された経済連携協定の元に行われています。

EPA制度に基づく看護師の受入れの流れ


日本で看護師として働くためには、日本語による国家試験に合格しなければなりません。このため、外国人看護師たちにとって日本語能力を獲得するのは必至です。しかしEPA制度では、来日前日本語研修期間の長さや、入国時の日本語要件は国によって異なります。また看護師になる前の研修の内容や支援状況についても、病院によってばらつきがあるのが現状です。このため、看護師としての素質はあるのに、日本語による国家試験に合格できないために帰国を余儀なくされる外国人看護師たちが多く出ています。

EPA制度に基いて来日する外国人看護師たち

EPAに基づき来日する外国人看護師らは、これまでに、インドネシア(2008年~)714名、フィリピン(2009年~)588名、ベトナム(2014年~)180名(2021年3月1日現在)です。

当初は求人数も求職者も多かったのですが、最近では頭打ちになっています。またベトナム人看護師の受入れに関しては、インドネシア、フィリピンに比べ求人数が急増していることがわかります。(図2 公益社団法人 国際厚生事業団 JICWELS の資料による)

EPA制度に基づく外国人看護師の受入れの問題点

外国人看護師の受入れ数が頭打ちになっている背景には、制度設計上の問題点があると言われています。例えば、国によっては配属前研修が十分ではなく、臨床現場における就労や、国家試験の勉強自体を効率よく進めることができないことがあります。受入れ病院にとって看護師を合格させるための追加費用(給与・ボーナス・社会保険負担等を除く)は一人当たり202万円かかるとされており(坪田、p.174)、その他コストに換算できない日本での生活上の支援や配慮等を合わせると、受入れ病院にとって、外国人看護師の雇用は決して安いものではありません。

一方、外国人看護師らからも、病院によって国家試験の支援体制が異なり、不平等であるとの声も上がっています。このように外国人が日本で看護師として働きたくてもEPA制度では、まず国家試験の壁が高すぎて難しいのが現状です。このような問題点が、EPA制度に基づく外国人看護師の求人数や求職数の減少となって表れていると思われます。最近では中国人看護師等、EPA制度以外での受入れにシフトする病院も増えているようです。

EPA制度は看護師の受入れに見合った制度になっているか?

なぜこのような問題が起こるのでしょうか。前述のように、EPA制度は貿易促進の目的で制定されたものなので、日本としては車を相手国に輸出したり、液化天然ガスなどのモノを相手国から輸入するときの取引が優先され、看護師の受入れについては、制度を運用しながら対応せざるを得ないことが背景にあると思われます。

そもそも看護師は人間であり、自分の意志で働く場所を決めることができる専門職なので、モノとバーター取引するには向かないのではないでしょうか。その一方で、EPA制度の運用に当たっては、ある一定数の受入れ数を確保しなければならない等、貿易相手国の顔を立てなければならない外交的な配慮も必要となります。このために、外国人看護師自身や受入れ病院の希望が反映された制度を効率よく運用するのは難しいと思われます。

今後の外国人看護師受入れのために

日本政府は、現在のEPA制度に基づく看護師の受入れは、送出し国の要望がない限り受入れをやめることはないという姿勢を持っています。しかし、現状では当事者である外国人看護師や受入れ病院の努力に頼っているのが現状です。

私たちは、今後、滞日中の外国人看護師のみならず帰国者を含めて国家試験の壁を少しでも取り払う政策を提言したいと思います。またやむなく帰国した者についても日本での就労経験を何らかの形でアジアの国に還元する方法はないかを模索していきたいと考えています。(2021.10.24 平野裕子 執筆)

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